脳神経外科ジャーナル
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成長解析よりみた化学療法の将来的展望(<特集>悪性神経膠腫の最良の治療はなにか)
星野 孝夫
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1992 年 1 巻 2 号 p. 136-142

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抄録

Bromodeoxyuridine (BUdR)に対する抗体が開発されてから,脳腫瘍の増殖能を定量的に解析することが容易になった.その結果,脳腫瘍の大半を占めるグリオーマ群では患者の予後が大きく増殖能に依存していることが明らかになってきた.最近では新しいBUdRに対する抗体が作られ,BUdRのみならず,IUdR(lododeoxyuridine)を用いた二重標識法による成長解析も可能になった.その結果BUdRによる標識率だけでなく,S期時間や理論的倍化時間など解析上の重要な指標が免疫組織化学的手法によって迅速に得られるようになり,その有用性が一段と高まってきている.これらの方法を用いることにより,次のようなことがわかってきた.まず,BUdRによる標識法による検索から現在有効な治療手段のないastrocytoma系のグリオーマにおいては,患者の生存率はBUdRによる標識率(LI)によって示される腫瘍それぞれの増殖能に密接に関係していること,およびlow grade astrocytomaはmalignant astrocytomaやglioblastomaとは増殖形態に根本的な差があることなどがわかってきた.次にBUdR, IUdRによる二重標識法からは,LIは各種腫瘍間のみならず同一腫瘍群内でもさまざまな値をとるが,DNA合成に要する時間はほほ一定で8.5±2.0時間と算出され,それらの結果をもとに計算された理論的腫瘍の倍化時間は2日〜1ヵ月あまりと幅広く分布することが明らかになってきた.細胞喪失(ce111oss)を考慮にいれると実際の腫瘍倍化時間は,その値の5〜10倍になるとされる.しかしながら,腫瘍細胞の細胞世代時間(cell cycle time)はそれほど腫瘍によって差があるわけではなく,計算によると1〜2日のorderであることが推測される.すなわちグリオーマにおいては増殖に関係して非常に変化の見られる指標と,あまり変動のない指標が存在することが示唆されたわけで,これらのことが化学療法をはじめさまざまな治療方法にどのような意味をもつかを今後検討し,臨床上にも利用して治療結果の向上を図る必要がある.

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© 1992 日本脳神経外科コングレス
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