2016 年 67 巻 1 号 p. 1_208-1_232
本稿では, 候補者レベルの政策位置を用いた空間投票を分析する。有権者や候補者の自己政策位置を尋ねるサーベイ調査においては, 回答者が回答の際に想定する政策空間が異質であるために回答された自己政策位置を直接に比較できないという問題が生じる。この問題を解決するために, 政党の政策位置の回答をブリッジ観察として自己政策位置をリスケーリングし, 有権者と候補者の政策位置を同一空間上に推定した。推定された政策位置を用いて近接性モデルに基づく空間投票の分析を行った結果, 有権者は政策距離の近い候補者に投票しやすいことが明らかになった。さらに, このような候補者レベルの空間投票のメカニズムを分析したところ, 有権者は候補者の所属政党との政策距離だけではなく, 候補者自身の政策位置との距離による投票選択を行っていることが明らかになった。このように有権者が候補者個人の政策位置を理解して投票を行っているという結果は, 空間投票研究に新たな知見を付け加えるものである。