在来種を緑化資材として利用する際,当該地域の生物多様性を保全する配慮が必要で,遺伝的攪乱を生じさせない手法の確立が求められている。しかし,現在,ほとんどすべての在来種について,緑化に利用するための移動許容範囲に関する情報は蓄積されていない。本研究では,緑化資材として有用なチガヤについて,近畿地方における移動許容範囲を提示することを目的として,近畿地方由来の111 系統とそれ以外の地方から採集した9 系統を加えた合計120 系統についてAFLP 解析をおこなった。その結果,近畿地方におけるチガヤの遺伝的分化の程度は低く,明瞭な地域集団の分化は認められなかった。しかし,自生地の緯度にともなう変異が存在する可能性があった。これらの結果から,近畿地方でチガヤを緑化資材として利用する際には,その移動範囲はほぼ100 km を目安とすることが適切であろうと考えられた。