2006 年 40 巻 Supplement1 号 p. 151-156
歌川広重の最晩年の作品「名所江戸百景」は、江戸のさまざまな場所を題材として制作された、技術的にも優れ人気のあった揃い物として知られている。いずれも江戸の風景を描いたものであるが、視点の位置や対象のとらえ方、また画面の構成に変化に富んだ奇抜なものが多く、それまでの広重の作品と一線を画している。本論ではその「名所江戸百景」の画面構成の特質を、地平線の高さと視点に位置について、またそれらの意味の観点から考察した。その結果、やまと絵の伝統的な遠近法表現によるもの、また画面の大胆な形態の構成に主眼を置いたものなど、異なる造形思想からの作品が見られることがわかった。この地平線と視点の意味は、広重のこの作品群にのみならず、一般の絵画の空間に共通する問題と考えられる。