症例は特発性陰嚢石灰沈着症である. 患者は72歳男性で, 主訴は陰嚢の無痛性多発性腫瘤である. 30歳頃より気づいていたが, 時に痒みを覚えたり, 圧迫するとチョーク様物質が排出されるだけであったため放置していた. 腫瘤の数と大きさは, 次第に増大していった. 腫瘤は硬く, 圧痛なく, 直径数mmから1cm大で, 一部黄白色の内容物が透見された. これらの腫瘤は下床とは可動性が認められた. X線にて陰嚢部に小石灰化像がみられた. 血清カルシウム, 燐, 尿酸, 25-OHビタミンDそれに1,25 (OH)2 ビタミンDは正常であった. 特発性陰嚢石灰沈着症の診断のもとに, 2カ所に集簇していた腫瘤を切除した. 摘出標本の光顕所見では, 真皮にヘマトキシリンに無構造に濃染する大小不同の塊状物質が認められ, コッサ染色で陽性所見を示した. 電顕所見では塊状物質の部分には mineral deposit がみられ, その周囲の線維芽細胞の細胞質内に電子密度の高い顆粒が観察された.