1986 年 77 巻 5 号 p. 701-706
造精機能障害が原因と考えられる不妊を主訴とする乏精子症患者62名に対し, メチルコバラミン (CH3-B12) 3,000μg/dayを3ヵ月間投与し, 精液量, 精子濃度, 総精子数, 精子運動率, 総運動精子数, 精子運動速度, 左右精巣容量, 血清LH, FSH, Testosterone 値, 精漿中Zn, Mg, PAP, Vitamin B12濃度を測定し, 各症例ごとに投与開始前後で比較した結果, 精子パラメータに関しては, 精子濃度, 総精子数, 精子運動率, 総運動精子数, 精子運動速度に有意な改善をみた. 血清ホルモン値ではLHが有意な低下を示したが, 日内変動の範囲内であった. 精漿中 Vitamin B12 は有意に増加していた. 経過観察中妊娠の成立をみたものは62例中5例であり, このうちの1例はAIHによる妊娠であった.
CH3-B12の作用機序に関しては従来指摘されていた核酸合成を介するものの他に, 精子運動に深く関与する protein-carboxyl methylation system によるメチル基転移を介して作用する可能性も示唆された.