2024 年 57 巻 1 号 p. 45-50
症例は57歳の女性で,腹部刺創で当院に救急搬送となり,精査の結果,外傷性腹腔動脈損傷,肝損傷,膵損傷の診断で,緊急開腹術の方針とした.術中所見では肝損傷,膵損傷に加え腹腔動脈の完全断裂を認め,腹腔動脈の結紮により止血を得た.総肝動脈が上腸間膜動脈から分岐するAdachi分類VI型の血管走行異常を有していたため,術後も肝血流は温存され,術後34日目に軽快退院した.腹腔動脈が断裂している症例においては結紮での止血により肝臓や胃の血流障害が危惧されるが,その血管走行異常によっては腹腔動脈の血流が途絶しても臓器の血流が温存される症例が存在する.今回,Adachi VI型の血管走行異常を伴う外傷性腹腔動脈損傷の1救命例を経験したのでこれを報告する.