X線分析の進歩
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原著論文
放射光マイクロビーム蛍光X線分析とXAFS解析によるホンモンジゴケ(Scopelophila cataractae)体内における銅と鉛の蓄積に関する研究
吉井 雄一保倉 明子阿部 知子井藤賀 操榊原 均寺田 靖子中井 泉
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2011 年 42 巻 p. 347-358

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抄録

センボンゴケ科イワマセンボンゴケ属のホンモンジゴケ(Scopelophila cataractae)の重金属蓄積機構を解明するため,ホンモンジゴケ茎葉体におけるCuおよびPbの分布と化学形態を明らかにした.野外から採取した茎葉体に10 mM PbCl2水溶液を添加して20分間振とうした試料について放射光μ-XRFイメージング(ビームサイズ3.5 μm (V) × 5.5 μm (H))を行い,1-2 mmという微小なコケの葉におけるPbとCuの元素分布を初めてin vivoで可視化することができた.添加したPbと野外で取り込まれたCuは,いずれも主として細胞壁に蓄積されており,中肋の厚壁細胞(ステライドセル)では特にCuが高濃度に蓄積されていることがわかった.また,0.01 M塩酸水溶液と茎葉体を20分間振とうしたところ,大部分のCuは水溶液に抽出されるが,中肋部に蓄積したCuは明瞭に残っていることが示された.また茎葉体のin vivo蛍光XAFS測定により,ホンモンジゴケ体内のCuは酢酸銅(II)と,Pbはステアリン酸鉛(II)と似た化学形態であり,CuとPbはいずれもカルボキシル基の酸素と結合していることが示された.以上より,PbとCuは細胞壁に含まれる酸性糖由来のカルボキシル基と結合して蓄積されていると考えられる.また,金属蓄積種として知られる,イワマセンボンゴケ(Scopelophila ligulata)およびオオミズゴケ(Sphagnum palustre)の葉についてもPbを添加し,種間比較を行った.イワマセンボンゴケにおいては,ホンモンジゴケと同様に細胞壁および中肋にPbの蓄積が見られた.中肋を持たないオオミズゴケの葉においては,Pbは透明細胞よりも葉緑細胞に高濃度に蓄積されることが明らかになった.

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© 2011 公益社団法人日本分析化学会 X線分析研究懇談会
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