日本予防理学療法学会 学術大会プログラム・抄録集
Online ISSN : 2758-7983
第10回 日本予防理学療法学会学術大会
セッションID: YOS-10-2
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予防OS10
大殿筋の構造的再評価:特に停止部とその周辺構造に着目して
姉帯 飛高坂井 建雄市村 浩一郎
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抄録

【はじめに】

大殿筋は強力な股関節伸展筋として知られ、ヒトの直立二足歩行においては大腿骨を後方牽引する重要な役割を担う。しかし解剖学の成書では、一般に大殿筋の大半の筋束は大腿骨ではなく腸脛靱帯に停止すると説明され、これは大殿筋が強力に大腿骨を牽引することと矛盾する。そこで本研究では、大殿筋の筋構造、特に停止構造を再評価し、機能解剖学的に検討した。

【対象と方法】

順天堂大学医学部の解剖学実習に供された解剖体25体25肢を用いて、大殿筋の筋構造を観察した。あらゆる方向から筋構造を観察するため、①大殿筋以外の全ての筋を取り外した骨盤・大腿部標本、②骨格から完全に取り外された大殿筋の筋標本を作製し、それぞれで精査した。また、筋機能の指標として、②の筋標本を用いて生理学的筋断面積 (PCSA)と筋線維長を計測した。

【結果】

大殿筋の上部3/4程度の筋束は、強靱な停止腱を形成していた。この停止腱は浅層上部の一部の線維が腸脛靱帯と一体化し、表面的な観察では腸脛靱帯に停止しているように見えた。しかし腱線維を注意深く追跡すると、ほとんどの線維は腸脛靱帯の深層で大腿骨の大転子の後外側を下行した後、大腿骨の殿筋粗面に停止していた。その際この停止腱は、大腿の屈筋 ・伸筋を隔てる外側大腿筋間中隔とも一体化し、その上端を構成していた。このように上部由来の停止腱、腸脛靱帯、外側大腿筋間中隔は強靱な停止腱を主体とし大腿骨に付着する密性結合組織の複合体を形成し、さらに大転子と接する部分には滑液包が見られた。一方で残りの大殿筋下部1/4の筋束は、上部由来の停止腱を含む上記複合体に直接停止していた。大殿筋上部と下部におけるPCSAの比率は、上部が76.77±4.27%、下部が 23.23±4.27%と上部が有意に大きく、また大殿筋の下部は筋線維長が有意に長かった。

【考察】

大殿筋の停止構造の特徴と筋機能指標から、大殿筋 上部は大腿骨に直接的かつ強力に作用して股関節の運動に大きく貢献し、下部は筋収縮能に優れ、上部の作用をサポートするものと考えられる。従来の大殿筋に関する運動学的情報は、今回明らかになった大殿筋の解剖学的特徴に基づき再解釈する必要がある。また、大殿筋上部由来の停止腱を主体とする密性結合組織複合体と滑液包の局所関係の理解は、弾発股や大転子部の滑液包炎の病態理解や障害予防に役立てられると期待される。

【倫理的配慮】

本研究で用いられたすべての解剖体は、生前に故人またはその家族から書面による同意を得て、医学教育および研究のために順天堂大学医学部に献体されたものである。本研究のプロトコルは、順天堂大学医学部倫理審査委員会の審査を経て承認されている (承認番号:2014138)。

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