主催: (一社)日本予防理学療法学会、(一社)日本理学療法学会連合
共催: 第5回 日本産業理学療法研究会学術大会, 第7回 日本栄養・嚥下理学療法研究会学術大会, 第57回 日本理学療法学術大会
会議名: 第9回 日本予防理学療法学会学術大会
回次: 1
開催地: 赤羽会館(東京都)
開催日: 2022/11/19 - 2022/11/20
p. 5
【はじめに、目的】
近年,患者が症状を許容できる状態Patient Acceptable Symptom State (以下PASS)を用いた評価が多く報告されており,臨床における目標の一つとなっている.腰椎椎体間固定術後の術前の傍脊柱筋の筋内脂肪浸潤(Fatty Infiltration:FI)の量が腰痛由来のADL制限の評価票であるOswestry disability index(以下ODI)に関与することは報告されているが,腰椎椎体間固定術後のODIにおけるPASSの達成の可否への影響は報告されていない.術前FIがPASSの達成に影響を与えることが明らかとなれば,腰椎椎体間固定術患者の術前から予後予測が可能となり,治療展開の一助になる.今回,FIの程度を分類できるGoutalier分類を用いて脊椎術後のODIにおけるPASSの達成の可否の予測要因となるか調査した.
【方法】
対象は当院で腰椎変性疾患に対して初回腰椎椎体間固定術を施行し,6ヵ月以上経過した者とした.除外基準は脊柱矯正固定術を施行した者,脊椎手術歴がある者,認知障害,神経系疾患を有する者,MRI画像がなかった者とした.従属変数はODIのPASS達成(22%)の可否とした.独立変数は,術前FI,年齢,性別,BMI,病変椎間数,術後期間,術前ODIとした.FIはL4,L5高位の傍脊柱筋の脂肪浸潤の程度をGoutalier分類の5段階を用いて,Grade0.1をFI無し,Grade2.3.4をFI有りとして2値に分けた.さらにL4とL5のFIが,ともにFI有りをFI群とした2値変数を用いた.統計解析はFIがODIのPASS達成の可否の予測要因かを明らかにするため,多変量調整モデル(モデル1:調整変数=年齢,性別,BMI,モデル2:調整変数=モデル1+病変椎間数,術後期間,術前ODI)にて検討した(有意水準5%).
【結果】
203名(女性123名,平均年齢±標準偏差69.0±9.6,PASS達成者145名,平均術後期間480日,病変椎間数中央値2椎間)を対象とした.単回帰分析の結果,術前FI(OR=0.40,95%CI:0.21-0.76,p<0.01)に有意差を認めた.多変量調整モデルの結果,モデル1では術前FI(OR=0.35,95%CI:0.18-0.68,p<0.01),BMI(OR=0.87,95%CI:0.80-0.96,p<0.01)に有意差を認めた.モデル2では術前FI(OR=0.37,95%CI:0.19-0.75,p<0.01),BMI(OR=0.87,95%CI:0.80-0.96,p<0.01),術前ODI (OR=0.96,95%CI:0.94-0.98,p<0.01)に有意差を認めた.
【結論】
腰椎椎体間固定術患者の術前FIは,ODIのPASS達成の可否の予測要因であった.術前FIがGrade2以上の患者は,許容できる腰痛由来のADL能力には至らない可能性がある.傍脊柱筋の機能不全は腰痛と関連していると報告されていることから,術前の脊柱安定化に寄与する傍脊柱筋の機能不全によりADL制限が残存したためと考える.その為,術後腰痛の予防を目的に治療を展開していく上で,術前FIを評価することは大切であると考える.
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に則り,研究の目的や方法について説明を十分に行い,書面にて同意を得て実施した.