PLANT MORPHOLOGY
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学会賞受賞者ミニレビュー
ボルボックス系列緑藻アストレフォメネに着目した多細胞形質の平行進化の研究
山下 翔大
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2023 年 35 巻 1 号 p. 69-75

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抄録

単細胞生物から多細胞生物への進化は生命の歴史の中で何度も独立に起こった現象であり,多くの系統で三次元的ボディプランや細胞分化も独立に獲得されている.多細胞性進化のモデル生物群であるボルボックス系列緑藻において,ボルボックス科とは独立に球状群体,非生殖細胞分化を獲得したアストレフォメネが知られていたが,ボルボックスやボルボックス科に比べてアストレフォメネの多細胞形質の詳細な研究はなく,平行進化に関わった発生メカニズムや分子基盤は未知であった.そこで著者らはまずアストレフォメネの新規培養株を確立し,それを用いたアストレフォメネの胚発生の詳細な解析より,ボルボックス科の「反転」と呼ばれる形態形成運動とは異なる球状群体形成のメカニズム,細胞分裂期の娘原形質体の回転を明らかにした.ボルボックス系列緑藻のより祖先的な平面状群体を形成するゴニウム,テトラバエナの胚発生との比較から,ボルボックス科とアストレフォメネの球状群体形成メカニズムはそれぞれの系統で新たに獲得されたことも示唆された.また,アストレフォメネの全ゲノム解読,細胞別RNA-seq解析より,ボルボックスにおける非生殖細胞分化の鍵遺伝子regAはアストレフォメネのゲノムには存在しないが,非生殖細胞特異的に発現する別の転写因子が見出された.一方,アストレフォメネとボルボックスで細胞間の遺伝子発現の分化パターンには共通性がみられた.

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© 2023 日本植物形態学会
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