2022 年 22 巻 5 号 p. 203-209
重希土類ドープアップコンバージョン蛍光体は980 nm付近の近赤外光を照射することで多光子多段階励起を引き起こし,励起光よりもエネルギーの高い青緑赤の可視光を発光することができる材料である。980nmの近赤外光の吸収にはYb3+が用いられ,そのエネルギーは発光を担うHo3+,Er3+,Tm3+へ と移動する。一般にf電子の励起状態は寿命が長く,発光を担うイオンはYb3+から再度のエネルギー移動 によって再び励起される。このプロセスにより多光子多段階励起した発光イオン中のf電子が輻射緩和することで,励起光よりもエネルギーの大きい可視光を発光する。極めて特殊な発光現象であることから,セキュ リティインキなどとして利用されている。励起に用いられる赤外線の生体透過性が高いことからバイオイメージングへの応用が研究され,太陽電池と組合せて発電に利用できない赤外線を可視光に変換することによる発電効率の向上が期待されている。