保険学雑誌
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「生命保険契約における『対価関係』の考察」—令和4年度大会共通論題—
保険金受取人の先死亡
得津 晶
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2023 年 2023 巻 661 号 p. 661_51-661_64

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抄録

保険事故発生前に保険金受取人が死亡した場合の保険金請求権の帰趨を論ずる保険金受取人の先死亡の問題に対して保険法46条は死亡した受取人の相続人全員が新たに保険金受取人となることを定める。かかる規律を含む受取人の先死亡に関連した保険法の規定に対して大塚英明教授は「対価関係」に2つのフレキシビリティーが生じたと指摘する。本稿はこのような大塚教授の指摘に対して,そもそもなぜ受取人先死亡が「対価関係」の問題になるのかを明らかにし,そこには大塚教授の「対価関係」理解に,従来の対価関係概念の理解とは異なる①具体的な事実関係の強調と②受益の意思表示不要・指定変更権の強調という2つの新規性があることを明らかにする。その上で,大塚教授のように「対価関係」概念の機能を拡大させて問題解決を図っていくという解釈手法に対して法学方法論の観点から論評し,それとは異なる法と経済学(法の経済分析)の立場からは,対価関係概念を拡大させることなく,ペナルティ・デフォルトとして現行の規律が説明できることを導く。すなわち,受取人死亡時における処理の選択肢として,保険契約者を受取人とする自己のためにする生命保険契約とする方法と,原受取人の相続人を新たな受取人とする方法の2つがあるところ,保険金受取人の指定変更権限を有する保険契約者に敢えて不利なデフォルトルールを用意することで,保険契約者の新たな指定変更権限行使によって受取人の権利関係が(素人の目にも)明確化することを図ったものと説明することができる。

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