口腔病学会雑誌
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パルス列電気刺激による歯髄診断の研究
(痛覚閾値に関して)
伊藤 昌男
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1969 年 36 巻 4 号 p. 246-260

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抄録

パルス列矩形波電流で人の歯を刺激するとき, 刺激の持続時間 (D) , パルス間隔 (1) および刺激発数 (N) を変えて, これらの組み合せによって起る痛み閾値の変動で歯髄疾患の鑑別診断を探究した。D及びNを一定にして1を変えたいわゆる強さ一間隔 (S-1) 関係で健全歯と炎症歯との問に明らかな差異を示した。
まず健全歯のS-1関係においては, 興味ある曲線が得られた。D=0.03msec, N=3を一定にして1を0.1msecから0.8msecまで段階的に増大して閾値を測るとき, 1の延長につれて閾値は上昇した。さらに1を0.8msecから1.0msecと延長すると閾値は急に下降し, 1が1.0msec~200msecの間では閾値は殆んど変化しなかった。そして1を1000msecに延長すると閾値は再び上昇した。1が0.8msec以下においてみられる閾値下降傾向の存在は, 各パルス毎に生ずる局所応答の加重によると説明できる。また1を0.8msecから1.0msecへ延長したときにみられる閾値下降傾向の存在は2発目以上が不応期を脱して有効刺激となり, 中枢で加重が起るらしく, 1が1000msecにおいて, 再び閾値に上昇傾向が認められるのは, 各パルス毎に生じたスパイク群相互の間が離れすぎ, 第2次ノイロン以上のシナプスでの加重が起りにくくなることも原因の一つと考えた。
次に臨床的に急性漿液性歯髄炎と思われる炎症歯についてみると, 0.5msec~100msecのパルス間隔にわたって閾値は殆んど変化しなかった。これは炎症歯髄の神経線維の機能が低下して局所反応が鈍化し, 健全歯にみられた1の0.8msecを中心とするPeakがみられなくなったものと考えられる。
Dおよび1を一定にし, Nを変えたときのS-N関係では, 健全歯と炎症歯との間には殆んど差は認められなかった。
最後に人の健全歯でみられたS-1関係および1が0.8msec以下における局所応答の加重の存在などを推定するために, カエルの神経標本を用いて2, 3の実験を行ない, ある程度推定を確かめることができた。

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