口腔病学会雑誌
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口腔細菌叢の常在機構に関する研究
乳菌酸の口腔内定着性を規定する因子について
大井上 忠雄
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1967 年 34 巻 3 号 p. 239-251

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抄録

口腔内細菌叢の常在機構に関する研究の一部として, 口腔内に乳酸菌を接種した場合の定着性を支配する因子に関して実験を行い, 次のような結果を得た。
1) 投与に先立ち乳酸菌のPC, SMに対する感受性, 耐性獲得能につき検索した所, PCに対しては, ヘテロ型はホモ型に比して速かに耐性化することが示された。SMに対しては, このような差はみられなかつた。いずれの場合も耐性獲得の前後で, 少くとも糖分解性状に関しては変化はみられなかつた。
2) 接種菌の定着を確めるためには, 1回の投与では不充分であつて, SM耐性化した分離直後の菌を5回くり返して投与した場合に, 8人中5人に定着がみられた。
3) 定着を支配する因子としては, 義歯の装着, 舌に乳酸菌の偏在性の高い口腔ということが, 最も関連ある因子として示された。これに対し, Lcount, う蝕歯数, DMFT-index等は定着性との関係は認められなかつた。
4) 人および動物の粘膜表面に常在する乳酸菌種に関する限り, 接種に使われた乳酸菌の菌種はその口腔内定着性を決定する因子とはならない。すなわち定着のみられた口腔においては接種菌種に関係なく, また口腔常在菌種に関係なく定着を示すのに対し, 非定着者の場合は, 自己口腔由来の菌種を用いた場合でも定着はみられなかつた。このことから接種菌種よりも, 口腔内常在菌種の安定性ということが定着に関連をもつのではないかと考察された。

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