雪氷
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雪氷化学的手法による山岳地域の冬季降水量算定
鈴木 啓助池田 敦兼子 祐人鈴木 大地槇 拓登
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2011 年 73 巻 5 号 p. 281-294

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抄録

北アルプス西穂高岳付近の標高2352m 地点で2010 年1月11日に積雪試料を採取し, 山岳地域における冬季降水量を雪氷化学的手法により推定した.降雪の化学特性のひとつめは,降雪中のNa+濃度と対流混合層の高さとの間に良好な相関が認められることである. つまり,降雪中の海塩起源物質濃度は冬型の気圧配置時に高くなる. ふたつめは,降雪中の人為起源の酸性物質濃度は南岸低気圧や日本海低気圧による降水で高くなることである.さらに,降雪中の酸性物質の割合は低気圧性の総観場で高くなる.積雪深が399cm の積雪層から化学的に特徴的な9層が抽出された. そのうち,3層は冬型の気圧配置によってもたらされ堆積したと考えられ, 他の6層は低気圧性の雪雲によってもたらされたと考えられる. それぞれの層が形成されたと考えられる日付が,気象条件を参照して同定された.次に,隣り合うふたつの層の間の8期間の積雪水量を算出し,気象庁による観測降水量と比較検討した.その結果, 積雪水量は調査地域の北西の観測地点における期間降水量との相関が高く, 南東の観測地点の期間降水量とは良好な相関が認められなかった. これらの関係は, 調査地域における冬季の気象条件を考慮すれば妥当な結果である.

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© 2011 公益社団法人 日本雪氷学会
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