本邦における頭頸部腫瘍切除後の再建手術手技は成熟し,これらの手術はおおむね高い安全性を持って行われるようになった。しかし,術野が頸胸部に広く及ぶ侵襲の高い手術は,気管孔壊死,致命的大出血,消化管再建時の縫合不全,縦隔炎,呼吸不全などの重篤な合併症を起こしやすく,いまだ安全とまではいえない。頭頸部外科医は,手術の安全性を高めるために局面毎に適切な判断を下し,手技の一つ一つを確実に積み重ね,各々の症例が良い経過をたどるよう最大限努める必要がある。今回,われわれは縦隔気管孔形成術後晩期に生じた大出血を制御し社会復帰をしえた下咽頭食道重複癌症例を経験したので,若干の文献的考察をまじえて報告する。