植物研究雑誌
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長野県産ハナイカリ(リンドウ科)の1新変種
上野勝典上野由貴枝
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2019 年 94 巻 4 号 p. 255-258

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抄録

長野県産ハナイカリ(リンドウ科)の1新変種

リンドウ科ハナイカリ属ハナイカリの新変種オオシカリンドウHalenia corniculata (L.) Cornaz var. dissimilis K. Ueno & Y. Uenoを記載した.ハナイカリは2枚の葉を対生し,葉腋に花茎を伸ばして4つの距のある薄い黄色の花をつけるが,オオシカリンドウは①ハナイカリ属を特徴づける距が完全に欠落しており,②黄色みがやや強く,③同所的に生育する同じサイズのハナイカリよりも10%程度花冠が大きい.オオシカリンドウは長野県大鹿村の標高1000 m付近の蛇紋岩質のカラマツ林に60株程度が群落を形成していた.2015年9月に発見したのちも,2018年9月まで同一の特徴を持った実生から育った個体が継続的に生育しているのを確認した.交雑が推定されるようなハナイカリとの中間的な個体は見つかっていない.また,現地で採取した種子から発芽を試みた結果,ほぼ100%発芽し,2年後に同じ特徴を持った花を確認でき,形態的,生態的にも安定していると考えられる.本変種は個体数が少ないうえ,他に自生地が確認できておらず,林道整備などの開発によって将来絶滅が心配されるので,環境庁レッドデータブックカテゴリーの絶滅危惧I類に相当する植物と考えられる.

変種形容語dissimilisは,本種の花の外見がハナイカリ属の標準的な形態とは異なることからこの名を当てた.

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© 2019 植物研究雑誌編集委員会
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