植物研究雑誌
Online ISSN : 2436-6730
Print ISSN : 0022-2062
ISSN-L : 0022-2062
マメ科アコウマイハギ連アコウマイハギ群の分子系統学的解析
大橋一晶大橋広好根本智行池田樹生泉 春奈小林春菜村垣宏和那谷耕司佐藤夏美鈴木舞香
著者情報
ジャーナル フリー

2018 年 93 巻 3 号 p. 165-189

詳細
抄録

マメ科Tribe Desmodieaeは33属を含み,Desmodium群,Phyllodium群,Lespedeza群に分けられている(Ohashi 2005).Desmodieae Desmodiumに基づく学名で,その和名はDesmodiumをヌスビトハギ属と呼んだままにヌスビトハギ連として残されていたが(大橋広好 マメ科.大橋広好ほか「改訂新版日本の野生植物」第2巻 p. 243,平凡社,2016),学名と和名とが一致しなくなったため,今回,アコウマイハギ連と改称したい.ヌスビトハギが Hylodesmum に移されてHylodesmumがヌスビトハギ属となり, Desmodiumの和名はシバハギ属と改称されたが,本誌前号でシバハギをGronaに移し,Grona をシバハギ属と呼ぶことにしたため,再びDesmodiumには和名がなくなった.日本にはシバハギのほかにもカワリバマキエハギ,ハイマキエハギ,タマツナギが自生していたが(改訂新版日本の野生植物 第2巻 pp. 264–265),カワリバマキエハギとハイマキエハギもシバハギ属となり,タマツナギは後述のようにタマツナギ属として独立した.その結果,日本にはDesmodiumの自生種はなくなり,アメリカ大陸からの帰化種であるアレチヌスビトハギD. paniculatum (L.) DC. ほか数種が見られることとなった.このために新たなDesmodiumの和名が必要であり,属のタイプ種であるアコウマイハギD. scorpiurus (Sw.) Desv. に基づいてアコウマイハギ属とした(本誌93(2): 120参照).アコウマイハギ連Tribe Desmodieaeはアコウマイハギ属に基づく.

 Desmodium群(アコウマイハギ群),Phyllodium群(ウチワツナギ群),Lespedeza群(ハギ群)はそれぞれ単系統であるが,アコウマイハギ群に含まれているアコウマイハギ属Desmodiumは多系統であった.われわれはアコウマイハギ群を中心に分子系統学的解析をおこなった結果,アコウマイハギ属内にいくつかの単系統群を認めることができた.これらの単系統群について形態形質,花粉形質などに基づいてまとめてきた分類学上の結果とも併せて,それぞれを独立属と認めることとした.先に発表した論文でGronaはタイプである G. heterocarpa に基づいてシバハギ属 (Ohashi and Ohashi 2018a),Sohmaea はタイプである S. laxiflora に基づいてホソミハギ属とした(Ohashi and Ohashi 2018a).さらに本論文では,次の6属を提案した.1) オーストラリア固有種Desmodium campylocaulonに基づくDesmodiopsis節を独立属としてのDesmodiopsis,2) Desmodium concinnumをタイプとする新属を琉球大学名誉教授立石庸一博士に献名してTateishia,3) Desmodium dichotomumをタイプとする新属はHarvard University Herbaria のDavid E. Boufford博士を記念してBouffordia,4) 先島諸島に自生し,旧世界の熱帯・亞熱帯に分布するタマツナギDesmodium gangeticum (L.) DC.は1種で単系統の単型属となった.タマツナギには保存名Desmodiumに対して廃棄されていた先行属名Pleurolobusがあったので,これを復活させ,タマツナギ属とし,種名は新組み合わせPleurolobus gangeticus (L.) J. St.-Hil.とした.5) オセアニアのDesmodium pycnostachyum は (3–)5–7小葉をもち,竜骨弁が鋭頭であることなどの形態的特徴をもつ.単系統であり,独立属Oxytesとした.6) Desmodium renifoliumをタイプとする新属は台湾大学名誉教授黄増泉博士に献名し,Huangtciaとした.D. renifoliumには台湾で命名されたジンヨウマキエハギなる和名があるので,ジンヨウマキエハギ属の和名を用意した.また,7) Desmodium oblongum Wall. ex Benth. はフジボハギ属Urariaの内群となったため,同属に移し,8) ヒメノハギCodariocalyx microphyllus (Thunb.) H. OhashiはLeptodesmiaと単系統となり,分類学上の位置を変更して,新学名をLeptodesmia microphylla (Thunb.) H. Ohashi & K. Ohashiとした.紀伊半島以西に分布する.属名 Leptodesmia (Benth.) Benth.をヒメノハギ属と呼ぶこととする.

著者関連情報
© 2018 植物研究雑誌編集委員会
前の記事 次の記事
feedback
Top