植物研究雑誌
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アジア産ラッコゴケ属(ハイゴケ科,セン植物門)の分類ノート
樋口正信
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2016 年 91 巻 suppl 号 p. 335-339

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抄録

ラッコゴケ属は東アジアを中心に分布するハイゴケ科に属する腋蘚類である.アジアの本属について研究する中で,ラッコゴケ属の新種とフウチョウゴケ属からラッコゴケ属に移動すべき種が認められた.新種Gollania parva Higuchi は,(1) 小さな植物体,(2) 茎葉と枝葉が分化していないこと,(3) 長い中肋と反曲する葉縁基部をもつ茎葉,(4) 葉身細胞の上端が突起状に突出すること,(5) 葉の翼部の細胞が葉身部の細胞とわずかに異なることなどの点で特徴づけられる.本種は中国(雲南省)にかけて分布するG. tereticaulis Broth. と小さな植物体と上端が突起状に突出する葉身細胞をもつ点で似ているが,G. tereticaulis は,葉の中肋が短く,枝葉は茎葉より小さくなるなどの点で本種と異なる.また,北西インド,ブータン,中国,台湾,日本,韓国,極東ロシアにかけて分布するG. ruginosa (Mitt.) Broth. の小形のものも似ているが,葉をつけた茎全体がより扁平になること,葉の先端にしわがよること,偽毛葉の先端が細長く尖ることなどの点で本種と異なる.台湾産本属の8 種の検索表を示す.極東ロシアから本属の2種,G. ruginosaG. turgens (Müll. Hal.) Ando,の記録があるが報告例は少ない.2013 年と2015 年に実施した極東ロシアのプリモルスキー地方南部の調査により, G. ruginosa がこの地域の広い範囲で生育することが確認された.本種は植物体の大きさや色がさまざまに変化することが知られているが,本地域でもその変化が見られた.

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