日本臨床薬理学会学術総会抄録集
Online ISSN : 2436-5580
第44回日本臨床薬理学会学術総会
セッションID: 44_3-C-EL11
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教育講演
臨床応用を見据えて基礎研究で考えておくべきこと~臨床薬理学会から若手薬理学研究者へのメッセージ~
*山岸 義晃
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抄録

トランスレーショナルリサーチとは、広義には、基礎研究の成果を、人に直接のベネフィットをもたらす研究をいう。特に、医学・生物学領域において、しばしば Bench to Bedsideと表され、基礎的な研究で得られた技術シーズを、疾病の治療や診断に用いる医薬品や医療機器等として実用化することを指す。近年、トランスレーショナルリサーチの成果として様々な医薬品が実用化され、大きなブレークスルーを与えている。新型コロナウィルスのパンデミックにおいて、驚異的な速さで開発されたmRNAワクチンはその代表的な一例であろう。

ベンチで示された生物学的なメカニズムを医薬品として実用化するには様々な困難が伴う。特に基礎研究で示された薬効について予備段階の臨床試験で確認する試験、いわゆるProof of Concept試験に至る期間は、しばしばtranslational gapと言われる。Translational Gapは、研究開発費用が調達困難であることが原因の一因といわれ、我が国でもその対策として、AMED橋渡し事業をはじめとした研究開発費用の支援の整備が行われている。しかしながら、超えるべきGapは資金だけなのだろうか?

BenchからBedsideの移行に従い、研究推進に必要な観点は増大する。普段、基礎研究者が重要性を認識していないポイントが開発で課題になることは少なくない。translational Gapを超えるにあたっては、薬効についての臨床薬理学的な理解のみならず、安全性のリスクや、医薬品の物としての性状・製造、疾病の実臨床における治療体系、薬事規制、医薬品メーカーの販売方針などに帰因する基礎と臨床のGapを十分に理解した上で、基礎研究の段階でどのようなデータを蓄積していくか十分戦略をねる必要がある。

今回の発表では、典型的なトランスレーショナルリサーチの流れを概説するとともに、translationl Gapの前で足踏みするプロジェクトでしばしば見受けられるポイントについて例示したい。

本報告の中で示すシーズ支援はAMED橋渡し研究プログラム・異分野融合型研究開発推進支援事業(JP19lm0203007、JP19lm0203014、JP20lm0203007、JP20lm0203014、JP21lm0203007、JP21lm0203014、JP22ym0126809、JP22ym0126815、JP23ym0126815、JP23ym0126809)の支援を受け手行われている。

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