日本臨床薬理学会学術総会抄録集
Online ISSN : 2436-5580
第44回日本臨床薬理学会学術総会
セッションID: 44_1-C-S08-3
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抗菌薬の臨床試験の実情と課題~CRCの立場から~
*小橋川 智美
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抄録

抗菌薬の治験は、急性疾患である感染症が対象となるため、慢性疾患対象の治験と比べて、緊急的な治験開始となる。治験の説明・同意取得、スクリーニング検査、適格性確認、治験薬投与開始までを、時間的猶予なく同日(数時間)で進めなければならない。

1.治験開始時の被験者の負担が大きい

市中肺炎の場合、特に軽~中等症では大学病院を受診する患者は少なく、候補患者は他施設からの紹介となることが多い。患者は、すぐに治療を開始して欲しいところ、具合が悪い中、初めての大学病院で初見の医師・CRCから治験の説明を受け、同意後は適格性確認のための検査が続き、不安や身体的負担が大きい。そのため、当院では、医師および検査部・看護部・薬剤部等への対応を複数のCRCで分担し、急な治験開始でも、患者の自由意思を尊重し、可能な限り早く進められるよう工夫している。

2.看護師や検査技師への負担が大きい

適格性確認が遅くなり、治験薬投与開始がすでに時間外になることも多い。治験薬投与開始後、許容時間内の頻回な血中濃度採血、検体処理などが、人員が減る夜間の時間帯となり、看護師、検査技師への負担も大きい。

3.時間外の治験薬の管理

当院では、治験薬の払い出しは、原則、平日時間内であるが、抗菌薬の治験では、時間外払い出しや土日対応も必要となる。注射薬の連日投与では、毎日のIWRS後の払い出し、検査値による投与量変更、非盲検薬剤師の治験薬調製など、土日の医師、CRCおよび薬剤師の対応調整を行っている。

4.複数診療科が関わることによる複雑さ

複雑性尿路感染症、敗血症などが対象の場合、どの診療科の患者も候補になり得る。そのため、複数診療科から分担医師を選定し、急な治験開始に備えて複数の病棟看護師に説明をして連携体制を構築する必要がある。また、各種トレーニングやdelegation logの取得人数が増えるため、対応が煩雑となる。

5.課題への今後の展望

地域医療情報システムを介した他施設での前治療歴確認や検査結果の利用は、治験開始時の患者の負担軽減や治験実施への効率化が期待できる。スタッフが安全に治験手順を実施できる人員数や治験への理解は、急な治験開始でも治験を円滑に進めるためにも必要不可欠である。また、治験薬管理および治験手順の簡便な取り扱いが望まれる。

今回は、抗菌薬の治験の特徴、治験実施時の問題点および当院での取り組みをご紹介するとともに、より良い工夫について議論したい。

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