谷本学校 毒性質問箱
Online ISSN : 2436-5114
レクチャー3 miRNA
3-1 腎障害ラットモデルの尿中miRNA解析とバイオマーカーへの応用
南 圭一
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2014 年 2014 巻 16 号 p. 47-55

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抄録

 近年の医薬品開発において、バイオマーカー(BM)の役割はますます大きくなっている。開発化合物の作用機序を担保するProof of Mechanism(POM:概念実証)マーカー、有効性を反映するサロゲートマーカー、患者選択マーカー、毒性診断/予測マーカーなど多岐にわたるBMがある。これらのBMは医薬品開発におけるgo/no-goを判断する基準として用いられ、成功率の上昇、開発コストの削減などに威力を発揮する。その一方で、臨床においても様々な病態や毒性、有効性を適切に判定することが可能なBMの探索は難航することもあり、特に新規疾患を適応とする化合物や稀な毒性を示す化合物において、臨床試験の開始を遅らせる原因になり得る。そこで注目されているのがマイクロRNA(miRNA)である。

 miRNAは、22塩基程度の短い非コードRNA(ncRNA)の一種である。miRNAは、標的となるメッセンジャーRNA(mRNA)に結合することで転写抑制あるいはmRNAそのものの分解を促し、蛋白質の翻訳を負の方向に制御する。このmiRNAは、発生、免疫応答、代謝からウイルスの複製まで、様々な生理学的プロセスを担っていることが知られている。そういった重要な役割をもつmiRNAは、一般的にRNAポリメラーゼIIによってprimary miRNA(pri-miRNA, 数100~数1,000塩基)として転写され、プロセシングによってヘアピン構造を持つprecursor miRNA(pre-miRNA, ~70塩基程度)を経て、最終的には成熟miRNA(mature miRNA)となる。miRNAデータベースのmiRBase(http://www.mirbase.org/)Ver. 21において、ヒトでは2,603種類、マウスでは1,920種類、ラットでは807種類のmature miRNAが登録されている。そのうち、ヒトとマウスで共通したIDを持つものは490種類、ヒトとラットでは412種類、この3種で共通するものは381種類に上る。このように、多くのmiRNAの発現については、動物種を越えて保存されている。

 miRNAのBMとしての利用が初めて報告されたのは、2008年のがん診断の用途である。非ホジキンリンパ腫患者の血清中で、3種類のmiRNAが健常人に対して増加していることが示された1)。続いて固形がんである前立腺がんにおいても、前立腺特異抗原検査(prostate specific antigen, PSA)と同等の検出力があるBMとしてmiR-141が報告された2)。組織障害BMとしては、アセトアミノフェン(APAP)誘導性肝障害のBMとしての報告が最初である。2009年、APAP投与マウスの血漿において、肝特異的に発現するmiR-122がALTよりも早期に増加することが示され3)、2011年にはヒトにおいてもAPAP誘導性肝障害時に血漿miR-122が増加することが示された4)。さらに、検出感度においてはmiR-122(83%)はALT(9%)よりも優れており、その他の肝毒性マーカーであるhigh mobility group box-1(HMGB1, 91%)及びfull length keratin-18(K18, 90%)と同等の感度を示している5)。それに加えて、miRNAは尿や唾液、涙、乳汁などの様々な体液中からも検出されており6)、様々な試料から非侵襲的に測定することが可能である。このように、miRNAが様々な体液中に検出されるのは、その安定性に依るものが大きいと考えられる。miRNAは、体液中ではエクソソーム封入体や蛋白複合体などで存在することが安定性の一因となっている7)

 以上のことから、血漿/尿中などの非侵襲性の体液で安定に検出され、動物種間での保存性から外挿性も期待でき、発現組織の特異性が高いmiRNAは、様々な組織障害のBMとして理想的である。そこで、我々はラット各種組織におけるmiRNAの発現分布を測定し、シスプラチン(CDDP)投与腎障害ラットモデルの解析と組み合わせて、より特異性の高い腎障害miRNA BMを探索した。

 なお、本研究はトキシコゲノミクス・インフォマティクスプロジェクト(TGP2)において実施された一連の研究成果の一部である。

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© 2014 安全性評価研究会
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