女性学
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論文
1990年代の中国本土における当事者による同性愛言説の形成
―呉春生をはじめとする運動家の活動を中心に
于 寧
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2022 年 29 巻 p. 105-128

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抄録

 本論文では中国クィア運動史の研究に位置づけ、中国本土最初のクィア運動家の一人である呉春生を取り上げる。呉は1990年代に中国本土初期のクィア運動を牽引し、当時のクィアコミュニティに関する貴重な文献資料を残しているものの、その貢献にはまだ焦点が当たっていない。呉をはじめとする運動家の活動を中心に、彼が手掛けた当事者の「一人称の語り」を記録した書籍やドキュメンタリー映画を分析することを通じて、同性愛の非犯罪化と脱病理化がまだ実現されていなかった90年代初期の中国本土のクィア運動における当事者による同性愛言説の形成の歴史を振り返ろうとする。当時生まれた「専門家によるオフィシャルな医学・科学表象」対「当事者によるオルタナティブな文化・芸術表象」という図式のもと、専門家と呉をはじめとする当事者が、90年代半ばまでにそれぞれ行った社会調査、出版した書物、制作した映画を比較分析する。当時の専門家による同性愛言説を参照しながら、当事者の自己に対する語りの方式を分析することで、どのように異なる同性愛言説が形成されたかを明らかにすると同時に、これらの言説の限界も解明する。それは2000年代のクィアコミュニティにおける非対抗的な戦略を理解するのに有益なだけではなく、現在のクィア運動が直面する当局からの反動と対処のヒントになるであろう。

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© 2022 日本女性学会
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