2020 年 35 巻 p. 21-30
本稿の目的は、2000年以降の障害政策が、障害当事者の地域での生活にどのような影響をもたらしたかを明らかにすることである。その目的のために、1)障害政策に関連する制度の変遷を整理し、2)障害当事者と社会との関係変容にいたった出来事を考察し、3)障害者総合支援法の利用者数と予算の推移を分析する。1)と2)の作業からは、2000年以降、労働力として人間を評価する「優生」的な流れが一貫して進む一方で、当事者による運動が市民権を獲得し、脱施設や地域移行などの成果が着実に社会に根づいてきていること、3)の作業からは介護保険法・障害者総合支援法などの法的・財政的基盤が確立し、社会ケアサービスの供給量が確実に増加してきたことが論証できる。この結果から本稿は、社会福祉法人やNPOによる社会ケアサービス供給の拡大によって、障害当事者がサービスのクライアントとして地域に存在することには成功したが、障害当事者が市民権を行使しながら市民として地域に参加するには未だ至っていないと結論づけた。