主催: 日本心理学会第84回大会準備委員会(東洋大学)大会長 大島尚
会議名: 日本心理学会第84回大会
回次: 84
開催地: 東洋大学白山キャンパス
開催日: 2020/09/08 - 2020/11/02
スマートフォンの地図(スマホ地図)は,現在地表示や移動方向指示の機能でユーザの認知を代行し,正確な移動を補助すると期待される。一方,この認知の代行は,ユーザ自身の空間記憶構築を阻害し,ルートの記憶を低下させる可能性がある。またこの影響は,自身の能力の正確な評価が難しい方向音痴の人において,特に顕著に見られると予想される。これらの仮説を検討するため,本研究では若年成人参加者20人にスマホ地図もしくは紙地図を使って実空間内を移動してもらったあと,地図を使わずに同じ経路を逆順で移動してもらった。スマホ地図条件と紙地図条件のそれぞれにおいて,地図を使った場合と使わなかった場合とで移動経路の正確さを比較した。その結果,紙地図条件では地図の有無による成績差が見られなかったが,スマホ地図条件では地図ありと比較して地図なしでの移動成績が低下した。一方,方向感覚によるこの影響の有意差は見られなかった。これらの結果は,スマホ地図はユーザの正確な移動を可能にするものの,潜在的には空間記憶を損なうことを示しており,デジタル機器による認知の代行がユーザの空間記憶構築を(短期的に)阻害することを示唆している。