人文地理
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展望
生活の質にかかわるアクセシビリティ研究の成果と課題―1980年代以降の動向を中心に―
谷本 涼
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2020 年 72 巻 4 号 p. 361-381

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抄録

アクセシビリティは,経済的な豊かさや,福祉・文化・環境といったさまざまな視点から生活の状態をとらえる概念である生活の質の,代表的な構成要素として位置づけられてきた。生活を営む空間が有する客観的特性だけでなく,個人の社会経済的状況にも起因して財・活動機会を得られない人々や地域に関する問題,および情報通信技術(ICT)の発展といった現代社会の潮流は,アクセシビリティ研究の手法と対象を多様化させている。これらを踏まえ本稿では,人々の生活に関わる1980年代以降のアクセシビリティ研究の成果と課題を展望する。その結果,以下のことが指摘できる。第一に,モビリティに関する側面に注目する分析では,都市・交通研究が中心となり,5Ds と呼ばれる分析指標が導入された。第二に,目的地の性質に注目する研究では,医学地理学が貢献した。需給バランスを考慮した新たなアクセシビリティ測度が開発され,幅広く応用されている。第三に,個人属性に注目するアクセシビリティ研究も多様化してきた。加えて,未来の状況,無形の事物,あるいは望ましくない場所を分析する研究もある。今後は,分析手法の有効性や政策応用の可能性の検証と,社会の変化に対応した未来の状況に関する議論が求められる。また,生活の質に関する理解を深めるには,アクセシビリティに対する価値観の個人差を議論することも重要となるだろう。

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© 2020 一般社団法人 人文地理学会
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