東北家畜臨床研究会誌
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ウシ血清α1-酸性糖蛋白の性状とその臨床測定意義
伊藤 博
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キーワード: , 血清α1-酸性糖蛋白
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1996 年 19 巻 2 号 p. 44-54

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抄録

急性期蛋白(APP)の一つであるウシa1-AGは、岩田らによってヒトと同様なAPPであることが確認されたが、その生理的変動および生化学的性状ならびに病態との関連性について言及した報告は少ない。著者らは、ウシa1-AGを単離精製して、抗ウシa1-AGを作成し一元放射免疫拡散(SRID)法による測定法を確立し、その生化学的性状および病態との関連性ならびに生物学的機能を検索し、以下の成績を得た。
1.ウシα1-AGは、健康なウシ血清から硫安分画、イオン交換クロマトグラフィーおよびゲル濾過法により単離精製した。精製ウシα1-AGの分子量は約42,000で、等電点は3.2~3.7と極めて低くα1-グロブリン領域に泳動された。そのアミノ酸構成は、ヒトや他の動物のそれとほぼ一致していた。総糖含量は26.6%と多く中でもシアル酸が8.3%と高かった。ウシ血清α1-AGの定量はSRID法によって実施し、検量線から50~1,500μg/mlの範囲において直線性が確認され、これをウシα1-AG値の有効測定範囲とした。
2.ウシ血清α1-AG値は、胎子の成長に伴い増加し、出生時の平均値±標準偏差値は1,368±206μg/ml(n=20)と最高値を示した。しかし、血清α1-AG値はその後徐々に減少し生後約20日齢で成牛と同様な値を示した。健康な成牛の血清α1-AG値は、284±95.9μg/ml(n=147)で、検査された検体数の95%が450μg/ml以下を示したので正常範囲の上限値を450μg/mlとした。
3.胎子、新生子および成牛の血清α1-AGを等電点電気泳動法とコンカナバリン(ConA)を含んだ交差親和性免疫電気泳動法でそれぞれの性状を検索した。等電点電気泳動法による胎子および出生直後の初乳未摂取子牛の血清α1-AGは、酸性側の等電点領域に成牛では検出されない数本の蛋白バンドとして認められた。交差親和性免疫電気泳動法では、ConAに親和性のない分画が観察された。しかし、これらの性状は、加齢と共に変化しその値は成牛に近似した。
4.ウシ白血病(BL牛)および各種疾患牛の血清α1-AG値の動態を検討した。等電点電気泳動法の分析では、BLや炎症性疾患牛は健康牛に比べて酸性側領域(等電点3.2~4.0)の蛋白バンドが増量していた。各種疾患牛の血清a1-AG値は、外傷性心膜炎やウシウイルス性下痢症などの強い炎症例で増加し、とくに病態が重篤な例において顕著だった。他の消化器疾患などの非炎症例では増加が認められなかった。
5.炎症性疾患牛と開腹手術を実施したウシ血清α1-AG濃度を経時的に観察した。症状が軽度な群の血清α1-AG値は、症状の悪化した群に比べて変動が少なかった。また、観察期間中に症状が悪化したため廃用または剖検に供された例では、血清α1-AG値が著明に上昇した。開腹手術例の血清α1-AG値は、術後、一過性に上昇したが、その後症状の回復に伴って下降し、術前の値に回復した。術後、腹膜炎を併発し剖検された例では、観察期間中高値を持続した。
6.免疫組織染色法により肝細胞のα1-AG抗原陽性反応を検索した。健康な胎子および新生子牛は、いずれも肝細胞の細胞質に陽性反応を認め、その染色度合は血清中のα1-AG濃度に依存した。また、肝膿瘍やウシ白血病牛では、膿瘍や腫瘍の近接部で最も染色度が強かった。
7.ウシリンパ球幼若化反応系にフィトヘマグルチニン(PHA)、コンカナバリン(Con A)およびポークウイドマイトジェン(PWM)を加え、同時に精製α1-AGと被検牛血清をそれぞれ添加して、それによってリンパ球幼若化がどの程度抑制されるかを調べた。その結果、ウシ精製α1-AGおよびウシ白血球の血清添加時のリンパ球幼若化反応は、各マイトージェンにおいて、α1-AG濃度に比例した抑制作用を示した。
8.実験的に作製された肝膿瘍牛における血清α1-AG値の変動および肝膿瘍発症時に上昇する血清α1-AGのリンパ球幼若化反応に対する抑制作用を検索した。第一胃静脈からF.necrophorumを注入後、血清α1-AG値は急激に上昇し、重症牛ほどその値は高く長期間持続した。発症牛血清のα1-AG濃度が高い値を示している期間は、リンパ球幼若化は抑制され、正常範囲内に戻るとその抑制は解除された。また、肝膿瘍牛から精製されたα1-AGは、すべてのマイトージェン(PHA,Con A,PWM)刺激によるリンパ球幼若化に対して抑制作用を示し、その抑制効果はα1-AG濃度に依存することが明らかとなった。

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