医療と社会
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研究論文
中小企業従業者のメンタルヘルスと企業特性
全国健康保険協会レセプトデータを用いた実証分析
山岡 順太郎藤岡 秀英勇上 和史鈴木 純足立 泰美
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2017 年 27 巻 3 号 p. 377-391

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抄録

近年,日本の労働者における心の健康(メンタルヘルス)の問題が深刻化している。メンタルヘルス問題に関するこれまでの研究では,精神疾患の発症に至る蓋然性の高さを示す指標が用いられてきたものの,精神疾患の発症や受療の有無をアウトカムとした分析は乏しかった。そこで本研究では,中小企業労働者における精神疾患の受療行動と,個人や企業の特性との関係を明らかにする。具体的には,全国健康保険協会・兵庫支部の90万人の被保険者のレセプト(診療報酬明細書)データを使用し,記述統計ならびにロジット・モデルの推計により,「精神及び行動の障害」による受療率の差異を検証した。その結果,中小企業労働者の精神疾患の受療率は男性や働き盛り層で高く,代理指標を用いた従来の研究の知見とは部分的に異なる結果が得られた。また,都市部の受療率がそれ以外の地域より統計的に有意に高く,医療供給サイドの要因や生活要因の存在が示唆された。さらに,労働者の個人属性の影響を考慮してもなお,産業間の受療率の格差が大きく,特にホワイトカラー職種が中心の産業の受療率が高いことが確認された。このことは,メンタルヘルス問題の発生や対策を考える上で,産業構造や職務内容の変化,さらに人的資源管理などの要因を検証することの重要性を示唆している。

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© 2017 公益財団法人 医療科学研究所
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