社会学評論
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精神科デイケアのワークの研究
―「円環的時間」という理解を可能にする実践―
河村 裕樹
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2021 年 72 巻 2 号 p. 84-99

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抄録

本稿では,精神医療の一形態である精神科デイケアでのフィールドワークをもとに,エスノメソドロジーの方法論的態度において,その成り立ちを可能にする実践と構造に焦点を当てた.

精神医療に対しては,その収容主義的な治療に批判が向けられ,病床数の削減などの取組みが始まっている.そのような状況に先駆けて,精神科デイケアでは,患者の地域での生活を支える支援が行われている.先行研究において,「円環的時間」という表現で,デイケアでは同じような時間が繰り返されることが指摘されている.そこで本稿では,そのような繰り返しを可能にする仕組みに着目した.その際,特に着目したのが繰り返しかつ頻繁に観察可能な「逸脱」の再利用と,「部活動」と結びついた「褒める」ことである.

その結果,患者の「逸脱」を「解決」へと導く方法や,「褒める」ことと結びついた「部活動」の取組みを明らかにした.そして「部活動」という特徴的な取組みが,患者を褒めることを容易にするだけでなく,職員の負担を調整するために組織されていることを見出した.こうした仕組みが,患者がデイケアに「居ること」を可能にしていることを,先行研究との比較を通じて論じた.そしてデイケアに対する「円環的時間」という特徴づけに対して,本稿での知見は,そのようにみえるデイケアであっても,さまざまに組織化され,計算され,考えられた仕組みによって成り立っていることを示していると結論づけた.

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