1996 年 21 巻 6 号 p. 1021-1023
腫瘤形成性膵炎 (TFP) は今日でも膵癌との鑑別が困難なことが多い。われわれは主膵管と総胆管の狭窄を呈し膵頭部癌との鑑別に難渋したTFPに幽門輪温存膵頭十二指腸切除術 (PPPD) を施行し良好な結果を得た1例を経験した。症例は54歳男性。飲酒・膵炎治療歴なく, 上腹部痛, 黄疸を主訴とし来院した。腹部CTで膵頭部は著明に腫大し, ERCPで下部胆管の全周性狭窄と膵頭部主膵管の糸状狭窄を認めた。胆汁・膵液細胞診, 膵管生検で悪性所見なく, 1ヵ月間保存的治療を行うも, 腹痛と経時的に観察したPTGBD造影での胆管狭窄像が軽快せず膵頭部癌が否定できないため手術を施行した。術中迅速病理で悪性所見を認めずPPPDを施行し, 術後診断は慢性膵炎であった。膵癌と鑑別が困難なTFPでは経時的観察が重要で, 保存的治療で軽快しない場合には早期に膵機能温存手術を行うのが妥当であると考えられた