2011 年 36 巻 2 号 p. 197-202
症例は54歳,男性.5年前に不安定狭心症に対し,右胃大網動脈(right gastroepiploic artery;以下RGEA)グラフトによる冠状動脈バイパス手術(coronary artery bypass graft;以下CABG)を受けていた.高血圧,糖尿病,高脂血症のため通院していた近医での腹部超音波検査で肝S4-8に最大径8cmの腫瘍を認めた.諸検査により非B非C型肝細胞癌と診断された.心臓CTや心筋シンチによるRGEAグラフトの走行と開存性,心機能評価を行った後に開腹術を施行した.術前6日間,ワルファリン内服による抗凝固療法からヘパリンの持続投与に変更した.開腹後,肝円索の切離時,肝鎌状間膜の左側に癒着していた脂肪織内にRGEAグラフトの拍動を確認した.肝外側区域表面を横隔膜方向へ走行するRGEAグラフトを損傷することなく,肝中央2区域切除術が遂行できた.術後合併症なく,11日目に退院し,術後7カ月の現在,再発なく社会復帰している.RGEAを用いたCABG後に発生した肝細胞癌に対し,肝中央2区域切除術を施行した1例を経験したので報告する.