アノード溶出の起るはずのないカチオン型電着膜中に被塗物電極の金属濃度が, 通電時間とともに減少する特異的な現象が報告されている。この特異的な金属の溶出機構の解明を目的として, 被塗物金属が鉄および亜鉛である場合をとりあげ, 電着膜中の金属量を分析し, その電着に要した電気量および塗装液の腐食性との関係について検討した。
亜鉛板のアニオン型電着では, 亜鉛の電気化学当量の50%におよぶアノード溶出が起こり, 金属濃度は通電時間とともに増大し数%の値に達した。カチオン型電着では, 塗装液の酸成分により腐食されて溶出した亜鉛が電着膜に含有されるので, 電着量が増えるにつれ金属濃度が低下する特異的な現象を示した。
これらの塗装液は鉄に対して腐食性を示さず, いずれの極性の電着膜にも鉄の溶出は検出されなかった。
被塗物金属の溶出機構は電着の極性のみで論じるのではなく, 塗装液の金属に対する腐食性を考慮すべきであることがわかった。