色材協会誌
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解説
バナジン酸塩化合物に基づくレア・アースフリー蛍光体
松嶋 雄太
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2014 年 87 巻 4 号 p. 118-123

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抄録

本解説では,無機蛍光体について一般的な応用例を紹介した後,近年筆者らが取り組んできたレア・アースフリー蛍光体を紹介する。現在,用途に応じてさまざまな種類の化合物が蛍光体として利用されており,それらの多くに発光中心として,あるいは母体の構成成分として希土類元素(レア・アース)が使用されている。地殻含有量の点から言えば,希土類元素が直近の将来に枯渇する心配はなさそうであるが,高濃度の鉱床が存在しないことや産地に偏りがあることは,需要に応じた安定供給に対する懸念材料となっている。レア・アースなどの希少元素に頼らない機能材料開発は,持続的発展社会実現へ向けた重要な技術となる。本解説で取り上げるバナジン酸塩化合物蛍光体は,結晶構造中のVO4四面体クラスタが発光中心として働くため,その蛍光にレア・アースをまったく必要としない。また,その発光色は結晶構造によって青~黄色まで変化することがわかっており,塩化バナジン酸塩の青色蛍光,ピロバナジン酸塩の緑色蛍光,オルトバナジン酸塩の黄色蛍光というように,結晶構造と発光色の間の関係を見いだすことができる。これは,発光中心であるVO4四面体中のV-O距離が発光エネルギーに関与していることを示唆しており,結晶構造中のV-O距離が長くなるにつれて発光エネルギーが減少する(発光波長が長くなる)相関が見られる。また,たとえばO2–の一部を負電荷の小さいFに置換することでV5+-陰イオン間の静電相互作用を小さくし,V-X間距離(X:陰イオン)を長くしたバナジウム酸フッ化物では,より長波長側の赤色蛍光が確認された。現状では,ブロードなピークに由来する色純度の低さや,とくに赤色系蛍光体のバナジウム酸フッ化物における化学的耐久性に課題があるが,現状でもレア・アースフリー蛍光体によるフルカラー化はすでに実現していると言える。バナジン酸塩化合物以外の蛍光体も含めレア・アースフリー蛍光体の可能性を紹介する。

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© 2014 一般社団法人 色材協会
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