2020 年 81 巻 9 号 p. 1889-1895
症例は70歳,男性.HIV陽性患者.腹痛とふらつきを主訴に受診し,CTで脾破裂が疑われた.外傷歴はなく,非外傷性脾破裂の診断で入院,精査した.画像所見では脾臓に血腫が多発しており,動脈瘤を疑う所見を認めた.HIV感染症を背景とした脾破裂であることを考慮して,原因検索と再発予防目的に開腹脾臓摘出術を施行した.手術所見では血性腹水と脾臓表面に最大径5 cmの破裂した血腫の他,複数個の未破裂血腫を認めた.病理組織学的検査では結核等の感染症や腫瘍性病変を示唆する所見は認めなかった.また,HIV感染症関連血管障害によって形成された動脈瘤の破裂を疑っていたが,動脈瘤や血管内膜障害の存在は病理学的には証明されなかった.HIV患者における脾破裂の報告は稀ではあるが,HIV感染症によって脾腫,結核,腫瘍性病変,HIV感染症関連血管障害等を合併することで非外傷性脾破裂の病因となることから留意が必要である.