日本臨床外科学会雑誌
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第79回総会会長講演
いつも手術を考える―細心と革新の神髄―
高山 忠利
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キーワード: 手術, 肝臓, 論文
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2018 年 79 巻 7 号 p. 1375-1383

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抄録

手術は技術(Art)と科学(Science)の二つの側面から成っている.技術を支える基本手技は,常に高い精度をもって完遂させる必要がある.その精度を獲得するには日々の鍛錬に勤しみ,条件反射的に身体に覚えさせるしかない.外科医は誰でも手術が巧くなりたいし,他人から手術が巧い外科医だと言われたい.私たち外科医の第一義は,100%手術であり,いつも手術を考え・悩み・工夫しなければならない.
手術の本質はその美しさにある.美しさを保証するのは,手技の的確さ・進行の円滑さ・術野の完成度の三つの要素(高山のトリアス)である.手術は水が流れるように,一定の規律をもって進行することが重要である.一連の手術において,小説の起承転結のように,各種の手技には重み付けがある.相対的に軽い場面ではミスなく,重い場面では慎重に,その機微を理解している外科医の手術は,結果として他人が美しいと感じるのである.出血量を可能な限り抑えた美しい術野が完成されれば,周術期が荒れることは決してない.
次に,手術が科学であることを知って欲しい.手術は,本質的に頭脳を駆使した知的行為である.手術ではなく脳術であることを理解できれば,一廉の外科医である.手術経験を重ね,蓄積したデータを解析し,得られた成果の中に手術の反省と意義を認識できれば,手術を科学として捉えたことにつながる.その過程で,きっと新しい発想が現れ,結果として独創的な術式が生まれる.
肝臓外科医になって35年経つが,手術を完璧に理解するという目標には,道半ばである.手術を技術と科学の集大成として考える下地がやっとできた段階にすぎない.それほど手術は深淵で雄大である.本学会が,細心(meticulous)で革新(innovative)の手術を学習する機会になれば幸いである.

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