1987 年 40 巻 6 号 p. 721-733
大腸腺腫症に対する今日の治療方針は早期に大腸粘膜を大部分または完全に切除して大腸癌の発生を未然に防ぐことである.その手段としては全結腸切除,回腸直腸吻合術が今日一般的に行われているが,残存直腸の発癌の問題をめぐって賛否両論がある,この問題の解決のために,なお長期のfollowupが必要である.また,我が国の現況では全例にこれを行うことは不可能である.その対応策としては第1に中央登録制度の,確立,第2に排便機能を温存し,かつ直腸粘膜切除を完全に行える手術手技の確立,第3に大腸癌のch-emopreventionの研究などが考えられる,外科的に可能な第二の方法は全結腸切除,直腸粘膜切除,回腸肛門吻合術である.本法は不完全なる排便機能,手技の困難性,高頻度の合併症のために本症に対する治療法として受け入れられていなかったが,最近にいたり,J嚢法などの手技の改善により適応を選べば,実用化し得ると考えられた.今後は大腸以外の臓器における悪性腫瘍発生の対策が研究課題である.