1982 年 35 巻 5 号 p. 502-508
外科的治療を必要とする放射線直腸障害に対して,従来,人工肛門造設術が一般的治療法と考えられていた.しかし自然肛門からの排便は,患者の最大の願望である.そこで,障害腸管の切除と肛門括約筋温存術が施行された4症例を報告すると共に,本症に対する肛門括約筋温存術式,特に貫通法の具体的手技とその有用性について言及した,本術式の適応基準として,(1)原疾患の再発が骨盤内に認められない,(2)S状結腸上部に放射線障害を認めない,(3)歯状線上2cm以内の直腸に放射線障害を認めない,(4)回腸に高度な放射線障害を認めない,(5)痔瘻や高齢などに起因する肛門括約筋機能低下がない,以上の5項目が重要と考えられた.本症には,放射線誘発癌の問題もあり,follow upに当っては症状を過少評価することなく,経時的検索が必要であると考えられる.