応用生態工学
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原著論文
サクラマスとイトウの生息適地モデルに基づいたダムの影響と保全地域の評価
福島 路生亀山 哲
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2006 年 8 巻 2 号 p. 233-244

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抄録

1.生息適地モデルを使って以下の2つの解析を行った.1つは北海道におけるサクラマスの分布に与えるダムによる流域分断の影響解析であり,2つめはサクラマスやイトウなどサケ科魚類の保護を目的として北海道が設定した保護水面が,的確に彼らの生息適地をカバーしているかどうかを見極めるための評価解析である.
2.サクラマスの生息適地モデルには説明変数として標高,気温,降水量,積雪深,流域人口,流域面積,調査件数,調査年,ダム分断後の経過年数,調査地点の位置座標が選ばれた.
3.ダム上流側でのサクラマスの生息確率は分断後,約30年経過すると急激に低下していた.これは古い時代に建設されたダムの多くは魚道がない,あるいは魚道の機能が低いのに対し,近年のダムにはサクラマスに比較的有効な魚道が設置されていることを反映しているのかもしれない.建設後30年を経過するダムへの魚道の設置,改良が強く求められる.
4.ダムの影響を受けてサクラマスの生息確率が低下している地域が全道にパッチ状に数多く分布する.特に著しい影響を受けた地域は,日高山脈西部や石狩川上流部などである.
5.イトウの生息適地モデルには説明変数として標高,気温,降水量,積雪深,流域人口,流域面積,調査件数が選ばれた.
6.イトウの生息確率に対するダムの影響は検出されなかった.しかし,そもそもイトウの主な生息域である湿原や原野にはダム等の工作物がほとんど建設されていないため,その影響評価を行うことには無理がある.
7.保護水面32水系におけるサクラマスの生息確率は全道平均よりも有意に高い.さらに保全指標値で比べると,保護水面における水準の高さはいっそう際立つ.しかしイトウに関しては生息確率,保全指標値ともに保護水面での水準が高いという傾向は認められなかった.イトウ保護のためには既存の保全地域の対応では不十分であり,高密度に生息する地域(例えば宗谷地方)の重点的な保全が提示された.

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© 2006 応用生態工学会
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