応用生態工学
Online ISSN : 1882-5974
Print ISSN : 1344-3755
ISSN-L : 1344-3755
原著論文
能登半島における絶滅危惧種カワヤツメ幼生の秋季微生息環境
荒川 裕亮柳井 清治
著者情報
ジャーナル フリー

2017 年 20 巻 1 号 p. 11-24

詳細
抄録

本研究では分布の南限地帯に生息する,カワヤツメ幼生の秋季の微生息場を石川県の中規模河川における野外生息環境調査と室内飼育実験により明らかにした.ワンド地形に生息する幼生の密度は対照区と比べて高く,ワンド地形はカワヤツメにとって重要な生息場であると考えられた.カワヤツメ幼生が生息場として選択したワンド地形の河床中には,細粒砂以下と有機物の割合が高かった.またワンド地形は対照区に比べて流速が緩やかであるという特徴があった.室内飼育実験においても幼生は粒径が最も細かい底質(0.25 mm 以下)を選好しており,幼生にとってこの粒径の底質が重要な生息条件であることが明らかになった.しかし野外生息環境調査より,底質に細粒な粒径と有機物が最も堆積するワンドにおいて,カワヤツメ幼生がほとんど確認されなかった.この地点は酸化還元電位の値が最も低い地点で底質が嫌気的であったために,幼生にとって生息しづらい環境であったことが推測される.また室内飼育実験において幼生が酸化還元電位の高い底質を選択したことからも,幼生は好気的な底質を選択すると考えられる.カワヤツメの分布南限に位置する町野川では比較的水温が高くなる.水温が高いことによって底質が嫌気的になりやすく,餌となる有機物が堆積しながらも,流れ込みなどによって好気的に保たれる環境が幼生の生息場として望ましい.

著者関連情報
© 2017 応用生態工学会
前の記事 次の記事
feedback
Top