宮崎県南部に成立する照葉樹林を対象として,植生調査と森林内の表層土壌中の植物珪酸体分析を行い,樹木起源珪酸体の組成と樹種構成との関係について検討した。植物珪酸体分析はアカガシ亜属型,シイ属型,イスノキ属型,クスノキ科型,マツ科型,およびアワブキ科型の6 つの珪酸体を対象とした。その結果,アカガシ亜属型やシイ属型珪酸体の出現状況は,それぞれの給源となる樹種の優占程度を反映しており,植物珪酸体分析を用いてカシ林やシイ林といった照葉樹林の群落型を区別できることが示唆された。クスノキ科型やアワブキ科型珪酸体の出現状況には,バリバリノキやヤマビワといった各給源樹種の分布状況との対応関係が見られた。マツ科型珪酸体は,調査地またはその近辺にアカマツなどのマツ科樹木が生育する,二次林的な照葉樹林内から検出される傾向が見られた。イスノキ属型の珪酸体は,給源となるイスノキが生育していない林分も含めて,すべてのプロットから高率に検出された。イスノキ属型珪酸体は,その他の樹木起源珪酸体と比べるとかなり多量に検出される傾向が見られたことから,イスノキ属型珪酸体を用いて過去の植生復元を行う際には定量的にかなり過大に評価される可能性が示唆された。