中小企業会計研究
Online ISSN : 2435-8789
Print ISSN : 2189-650X
中小・ベンチャー企業における簿記・会計による管理の有用性
飛田 努
著者情報
ジャーナル オープンアクセス

2017 年 2017 巻 3 号 p. 37-49

詳細
抄録

 本稿は,国内外の先行研究と筆者がこれまで実施してきた調査をもとに,中小・ベンチャー企業(以下,小規模企業)における簿記・会計による管理の有用性について論じることを目的とする。

 熊本県内や福岡市内の中小企業を対象としたアンケート調査では,従業員数が少ない企業では会計情報をあまり重要視していないが,従業員数が30 名程度以上の中小企業ではその重要度が高いと回答している(飛田2011,2012a)。また,経営理念,行動規範,会計の3 つのコントロール・レバーがどの程度組織成員に受容されているのかを企業規模によって比較したところ,経営理念については規模による差が見られなかったものの,行動規範や会計は従業員数が多い企業と少ない企業とでは受容度が異なるとの結果が得られた(飛田 2015)。最後に,中小企業におけるManagement Control System(以下,MCS と略記する)がその組織成員の心理的要因(動機づけ)にどのように影響しているのかを分析したところ,従業員数が少ない企業では経営理念の浸透が重要である一方で,従業員数が30 名程度以上の企業では経営理念に加えて,行動規範の制定や会計情報を組織内部でのコミュニケーション手段とし て用いることで組織成員の動機づけが高まることを明らかにした(飛田2012b)。

 その後,日本簿記学会簿記実務研究部会(2016)によるインタビュー調査を行う中で,小規模企業の簿記・会計実務には多様性があることが明らかになった。簿記システムを通じた会計情報の作成は活動の捕捉,分類,総合,報告の一連プロセスを通じて行われるが,それぞれの企業が事業活動を捕捉するのに適合的な方法で簿記実務を行っている。

 本稿では,こうした実態調査に基づいて得られた知見をもとに,小規模企業における管理会計研究の分析視角を提示するとともに,今後の研究課題を提示したい。

著者関連情報
© 2017 中小企業会計学会
前の記事 次の記事
feedback
Top