日本民俗学
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論文
墓のmetabolism
―両墓制埋葬地サンマイにおける「美徳」の発生と墓地管理システム―
大地 真帆
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2021 年 307 巻 p. 1-32

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抄録

 本論は従来の両墓制研究が詣り墓重視であったこと、また死穢忌避観念の希薄化した後の埋葬墓地の管理化の問題を等閑視していた点を指摘し、従来の静態的な視点とは異なり、墓は生き物のように日々新陳代謝をする(metabolism)という動態的視点から、香川県観音寺市大畑の両墓制を調査対象とした。

 そして土葬時代に忌避され、非日常的な空間に放棄されていた埋葬墓地(サンマイ)が一九八〇年代の火葬導入と墓地開発によって、住民の視線と意識を引きよせる「見られる」墓へ変貌をとげ、住民自身によって日常生活下で管理されるに至ったプロセスを数量的・質的分析アプローチの双方より明らかにした。具体的にはサンマイの石塔造立の数量的分析より、火葬導入による遺骸から遺骨への形態変化に対応するために、新しくカロート付石塔の家墓が造立されるようになった墓地開発のパターンを明らかにした。そして各々の墓を所有する「顔」がみえずに匿名性が高い入会制管理の状態から、やがてコンクリート製外柵の設置によって、家ごとの墓域と土地所有が明確な状態へと変貌していく様相を指摘する。

 そして各家のもつ墓域の明瞭化によって管理主体の個としての「顔」が見えるようになったサンマイは、土葬時代まで墓地を管理してきた三昧聖ともいえるアンモウリの消失と重なりあいながら、住民自らが家の標識ともいえる家墓に色花を飾り「祀る」ようになり、二〇〇〇年代初頭には墓地管理委員会を新設して日常的に管理するようになった。

 さらに住民の視線を誘引して「見られる」墓となったサンマイは、日常的に家墓に墓参りをして墓前に色花を絶やさず「きれい」な状態にしておくことが「善い家」であるという、新たな社会的評価をもたらす場へと空間的機能が変わっていった。この村落内における新たな〝美徳〟の発生は、非日常的空間として放棄されてきたサンマイを日常的な管理のもとへ急速に組み込んでいった。つまり八〇年代以降のアンモウリ不在の穴を埋めるようにして〝美徳〟の発生が住民自らによる墓地を管理する原動力としてはたらき、持続可能な墓地管理のシステムを生みだしていることを明らかにした。

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