2022 年 86 巻 1 号 p. 19-31
宮城県中部海域の女川湾において,2018年にAlexandrium spp.が高密度化し,38年ぶりにホタテガイで麻痺性貝毒が発生した.そこで本研究では,海洋環境および競合すると考えられるケイ藻との関係を調べることで,Alexandrium spp.の増殖要因について検討を行った.宮城県沿岸域では,2018年春季に暖水の影響が強まった.そのことでAlexandrium spp.の増殖に適した水温となり,また水温躍層が発達することで増殖しやすい環境が形成された.さらに水温上昇がケイ藻の群集構造に影響を与え,Alexandrium spp.の増殖に負に作用すると考えられるThalassiosira nordenskioeldiiとChaetoceros debilisが減少した.これらの複数の要因により女川湾でAlexandrium spp.のブルームが発生したと考えた.ブルームにより,女川湾で堆積したシストが“seed population”となり,さらに近年,水温が上昇トレンドであることから,この水域における麻痺性貝毒発生について引き続き注意を払っていく必要がある.