三重県志摩市の的矢湾奥に位置する伊雑ノ浦は,ヒトエグサ(Monostroma nitidum)の養殖が盛んで,1970年頃は300tを超える生産量があった.しかし1980年頃から生産量が急激に低下し,漁業者はその原因究明を求めている.そこで,2014年の春季および夏季に濁度を含む様々な海域環境を気象状況とともに連続的に観測し,濁りの現状および発生要因を明らかにした.その結果,ヒトエグサ葉体の成長に影響を与える濁度7 FTUを超える時間の割合は春では17–66%,夏では26–73%と極めて高かった.高濁度が常態化した要因としては以下のことが推測された.i)ダム建設等に伴う河川流量の減少により,浦奥から浦央にかけての平均流が弱化し,かつ時計回りの環流傾向となった.ii)接続水域からの表層流出が相対的に弱まり,流入SS(Suspended Solid)および浦内で生産および再懸濁したSSが浦内から流出し難くなった.iii)浦内に滞留,沈降したSSは,風のみならず潮汐によっても常時再懸濁するようになった.iv)SSの堆積が浦内の底質環境の悪化と底生生物の減少を招き,底泥の自浄機能を低下させた.