2023 年 37 巻 1 号 p. 59-71
目 的
ムスリム外国人女性の日本での妊娠・出産経験を明らかにし,助産ケア向上のための示唆を得ることである。
対象と方法
日本で妊娠・出産を経験したムスリム外国人女性3名を研究参加者として,質的記述的研究を実施した。インタビューガイドを用いた半構造化面接によってデータを収集し,質的帰納的に分析した。
結 果
日本で出産することを決めたムスリム外国人女性たちは,日本人やムスリム仲間の評判を頼りに【安全で安心できる出産施設を選択】していた。そして,産育習俗や言語,医療従事者の対応など様々な場面で【母国との違いに戸惑う】経験を重ね,【試行錯誤しながら宗教上の規範を守(る)】っていた。女性たちは新たな生命を宿した重要な時期に,最善の形で自らの信仰を体現することができない現状に対する葛藤と受容を幾度となく繰り返しながら,自分なりの妥協点を見出して折り合いをつけ,【現状に合わせ規範の解釈を柔軟化】するプロセスを辿っていた。そうしたプロセスを経て,母子共に安全に産みたい,宗教上の規範を守りたいといった【ニーズを満たせたことに感謝】する経験をしていた。
結 論
本研究により,ムスリム外国人女性の日本での妊娠・出産経験として【安全で安心できる出産施設を選択】【母国との違いに戸惑う】【試行錯誤しながら宗教上の規範を守る】【現状に合わせ規範の解釈を柔軟化】【ニーズを満たせたことに感謝】の5つのコアカテゴリーが抽出された。ムスリム外国人女性に対する助産ケア向上のためには,専門性を発揮し,エビデンスに基づいた安全で安心できるケアを提供するとともに,ムスリム女性たちが外国人妊産婦に共通する不安や戸惑いに加え,宗教上の葛藤も抱えていることを理解したうえで宗教を含む文化や価値観を尊重し,個別性や多様性に配慮したケアを提供し,肯定的な出産経験に繋げることが必要であるとの示唆を得た。