日本細菌学雑誌
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腸炎ビブリオの病原性とゲノム構造に関する分子遺伝学的研究
飯田 哲也
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2004 年 59 巻 3 号 p. 457-464

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抄録

日本で発見された病原細菌である腸炎ビブリオ (Vibrio parahaemolyticus) は, 長年日本における食中毒原因の上位を占めている。本菌は近年, かつてなかったような世界的流行をひき起こしている。腸炎ビブリオの染色体地図を作成する過程で我々は, 本菌のゲノムが2つの環状染色体よりなることを見出した。このような2つの染色体よりなるゲノム構造は Vibrio 属菌に共通の性状であった。一般に細菌は1個の環状染色体をもつとされてきたが, 我々の成績は細菌のゲノム構造がそれまで考えられてきた以上に多様でありうることを示したものであった。また, 腸炎ビブリオのゲノム解析の結果, 本菌のゲノムには pathogenicity island と考えられる領域が存在しており, その領域中には3型分泌装置の遺伝子群がコードされていることを明らかにした。神奈川現象の原因物質である耐熱性溶血毒 (TDH) を中心に行われてきた腸炎ビブリオの病原性研究が, ゲノム解析により新たな展開をみせている。以上の知見を含め, 本稿では筆者らがこれまでに行ってきた腸炎ビブリオの病原性とゲノム構造に関する研究についてまとめてみたい。

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