日本医真菌学会雑誌
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まれな深在性真菌症の病理
トリコスポロン症を中心に
中村 智次酒井 俊彦福澤 正男羽山 正義発地 雅夫
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1993 年 34 巻 2 号 p. 155-163

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抄録

最近増加している弱毒腐生菌による深在性真菌症のうち, トリコスポロン症に注目して症例の検討・文献的および実験的検討を行い, 以下の結果を得た.
1) トリコスポロンの組織内形態はカンジダに類似するが, 仮性菌糸・真性菌糸の両者が混在して存在し, 菌糸の太さが不規則で, 三日月形の胞子や四角形の分節胞子がみられるなど多彩な形態を示した. また免疫組織化学的にもカンジダとの鑑別が可能であった. 2) 文献的には1991年までに85例の深在性トリコスポロン症の報告があり, 67例が播種性または敗血症性であった. 55例が白血病などの血液疾患を有するcompromised hostsに発症し, 定型例では無反応性病変や壊死性病変が多いが, 生存例では何らかの組織反応が少なくとも一部に存在していた. 3) トリコスポロンの感染実験では, 無処置マウスに菌を静注すると肺に限局した化膿性肉芽腫が形成され, 菌は2日以内に処理された. これに対し, 抗癌剤投与により白血球減少をおこしたマウスでは全身諸臓器に菌糸の発育を伴う無反応性病変を形成したが, 白血球の回復と共に組織反応がおこり, 菌はすみやかに処理された. 以上の結果は定型的な日和見感染の所見で, 生体防御機能の破綻が発症に重要と考えられたが, カンジダ・アスペルギルス・ムーコルなどの感染実験と比較すると, トリコスポロンはこれらの菌よりも病原性は弱いものと思われた.

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