九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2021
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ウェルウォークのフィードバック方法を変更したことで即時効果を得た報告
*寺口 拓真*森 義貴*眞倉 崚汰*田中 康則*濱崎 寛臣*野口 大助*三宮 克彦*伊藤 康幸
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p. 13

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抄録

【はじめに】

トヨタ自動車( 株) 社製ウェルウォークWW-1000(WW) は,前方画面付きトレッドミル上で視覚フィードバック(visual feedback:VFB) や聴覚フィードバック機能,患者懸垂免荷装置,ロボットアシスト機能を用い,最適な難易度の練習ができる運動学習理論に基づいたリハビリテーション支援機器である.今回,半側空間無視(unilateral spatial neglect:USN),注意障害を呈した左片麻痺患者に対しVFB を変更した後,変動する歩幅と体幹の前傾が減少した即時効果( 施行間比較) を得た経験を報告する.

【症例紹介】

症例は脳梗塞により左片麻痺を呈した70 代女性.発症から第51 病日時点でBrunnstrom Stage:I - I - II,感覚は重度鈍麻,垂直位での座位保持困難,FIM:44 点,高次脳機能障害としてUSN(Behavioural Inattention Test:通常検査26/146 点),注意障害(評価困難)を認めた.第41 病日,移乗の介助量の軽減を目的にWW を開始した.WW の頻度は6 回/ 週,20 分/ 日(5 分× 4 セット),歩行距離は100m/ 日程度実施した.WW 開始10 日目の設定は,速度0.40 ㎞ /h,膝伸展・振りだしアシスト最大値,矢状面のVFB としていた.

【介入方法】

WW10 日目の1 施行目の課題として,(1)麻痺側・非麻痺側ともに歩幅が変動し,(2)体幹の前傾が観察され,(3)前方画面を継続して注視できていなかった.BIT の評価から前方画面の左側の視覚情報を認知できず,進行方向が左向きの映像である矢状面のVFB が活用できていないと判断した.また注意障害により全身が映る前方画面は情報量が多いため注視できないと考えた.よって2施行目は前方画面の右側を利用することこと,視覚情報量を減らすことを目的として,VFB を矢状面から足元に変更した.加えて,変動する歩幅を一定させる目的として,非麻痺側下肢の目標接地位置を示す足形が足元のVFB 上に表示されるよう設定した.1 施行目と2 施行目の歩容の比較は,WW に録画された動画の10 歩行周期分の静止画を用いて左右の歩幅と体幹前傾角度を測定した.体幹前傾角度は耳垂と大転子を結んだ線と垂直軸のなす角度とした.これらの測定値から平均値と標準偏差を求め,変動係数を標準偏差/ 平均値で算出した.

【結果】

1 施行目( 矢状面のVFB) の各測定値の平均値及び変動係数は,非麻痺側歩幅(20.0 ㎝,0.56),麻痺側歩幅(39.8 ㎝,0.21),体幹前傾角度(9.3°,0.53) であった.2 施行目( 足元のVFB) は,非麻痺側歩幅(13.8 ㎝,0.31),麻痺側歩幅(45.6 ㎝,0.17),体幹前傾角度(5.7°,0.29) であった.2 施行目は,1 施行目に比べて3 つの項目全ての変動係数が減少した.

【考察】

USN では,情報量が多いと無視症状が悪化することが知られている.本症例において,VFB を矢状面から足元に変更したことで,認知できる右空間を利用したこと,全身から足元に視覚情報量を減らしたことと,非麻痺側下肢の目標接地位置を呈示したことで注意が向きやすくなったことが,歩幅・体幹前傾角度の変動の減少に繋がったと考える.運動プログラムを形成するためには,パフォーマンスにおけるエラーを減らして,恒常練習によって反復する必要があると言われている.このことから,VFB の変更後に歩幅や体幹前傾の変動を減らすことは,非麻痺側下肢と体幹の運動プログラムを形成することに繋がると考える.本症例に対して USN や注意障害を考慮し介入したことで,残存した機能を即時的に引き出すことができた.今後,VFB の変更により得られる効果と効果の得られやすい対象などは今後検討が必要である.

【倫理的配慮,説明と同意】

本症例,家族に報告の趣旨と個人情報の保護について説明し,同意を得た

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