弘前医学
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弘前医学会抄録
〈一般演題抄録〉 脳出血モデルラットにおける運動機能回復に運動が及ぼす影響
佐藤 ちひろ笹原 美穂小枝 周平澄川 幸志三上 美咲山田 順子
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2017 年 68 巻 1 号 p. 88-

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抄録

【はじめに】 脳卒中は医療の発展に伴い死亡率が減少したが、多くの後遺症が必発する。リハビリテーションは長期間の継続を要し、患者や介護者の負担が大きいことから、運動機能障害に対してエビデンスに基づいた有効な治療法の開発が急がれる。一方、患者のモチベーションややる気が運動機能回復に影響することは明らかであるが、そのメカニズムはわかっていない。
そこで、運動麻痺に最も有効な運動介入の手法を検討し、そのメカニズムを解明するため、線条体出血モデルラットを作製し、自動運動と強制運動による介入効果を検討することを目的とした。
【方法】 雄SD ラット(8-9 週齢)を使用し、右線条体にコラゲナーゼtypeⅣ(SIGMA 社, 200U/ml)を注入し脳出血モデルラット(以下ICH ラット)を作製した。実験群は、強制的にトレッドミル走を行わせた強制運動群(以下F-Ex群)、回転ケージ内で自由に運動を行わせた自発運動群(以下V-Ex 群)、対象群であるnon-Ex 群の3 群を設けた。運動介入は術後4 日目より実施した。運動機能評価は、Beam Walk テスト、後肢引き戻しテスト、自発回転テスト、ワイヤーハングテストから構成されるMotor Deficit Score(以下MDS)を用い、術後15 日間毎日評価を行った。
【結果】 術後1 日目には3 群とも運動麻痺が認められ、3 群間で有意な差は認められなかった。運動介入開始後、Beam Walk テスト、後肢引き戻しテスト、自発回転テスト、MDS 合計得点のいずれの項目においても、non-Ex 群(n=7) に比べF-Ex 群(n=10)、V-Ex 群(n=8)の得点の改善が認められ、運動を行うことで運動麻痺が早期に改善した。また、V-Ex 群はICH 群に比べて有意にBeam Walkテスト、後肢引き戻しテスト、MDS 合計得点において得点が低く、自発運動の 方が運動麻痺改善に有効である可能性が示された。
【考察】 運動実施により、対側基底核や小脳系の運動学習による運動パフォーマンスの向上や、残存した皮質脊髄路での経路の再形成が促進し、機能回復を促進する可能性が報告されており、本研究もそれを支持する結果となった。ま た、やる気やモチベーションを司る側坐核が大脳皮質一次運動野を活性化させることにより、運動機能回復を促進させるという報告がある。本研究結果においても運動に対する意思が関与した可能性がある。しかし、本研究で実施した運動介入では2 群間の運動量に差があり、その差が自発運動群の機能回復を促進した可能性も考えられる。今後は運動の量や強度を統一して効果検証を行う必要がある。また、運動の種類による脳回復のメカニズムを明らかにするためシナプスやスパイン解析によるネットワークの変化を運動機能変化と併せて検証していく予定である。

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